記事一覧

「ディーゼル」が“フォロワーになれ”キャンペーン

アップロードファイル 18-1.jpg

「ディーゼル(DIESEL)」は、“フォロワーになれ(BE A FOLLOWER)”と題した2019年春夏のキャンペーンを公開した。同キャンペーンではインフルエンサーたちの日常をユーモアを交えて皮肉り、一般人であるからこそ得られる恩恵や気楽な生活に焦点を当てている。

キャンペーンでは、数々の著名なインフルエンサーたちとともに一般人が登場。インスタグラムで96万ものフォロワーを抱えるセルフィーフォトグラファーでモデルのジェニファー・グレイス(Jennifer Grace)や、自身のコスメブランド「KNC ビューティ(KNC BEAUTY)」を手掛け、33万のフォロワーを抱えるクリステン・ノエル・クロウリー(Kristen Noel Crawley)、ユーチューブのチャンネル「PAQ」を手掛けるインスタグラマーのエライアス・リアディ(Elias Riadi)、カニエ・ウェスト(Kanye West)やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のコミュニティーに属するスタイリスト、ブラッディ・オシリス(Bloody Osiris)、そして日本からはAMIAYAが登場する。

キャンペーン動画では、インフルエンサーであるからこそ陥る厄介なあるあるネタを、インフルエンサーたちが演じ、その後「ディーゼル」をまとった一般人の、そうしたしがらみや厄介な日常にとらわれない気楽な生活を映して両者を比較。例えばAMIAYAが登場する動画では、映えるフードの写真を撮ろうと2人が躍起になっている一方で、道端のフードスタンドで何も気にせずハンバーガーやポテトを食べる一般人の生活を映す。リアディが登場する動画は、リアディが彼女といい雰囲気になったときに彼女のオシャレなレースアップブーティーをすぐに脱がすことができずに苦戦しているのに対し、「ディーゼル」を着たカップルはさらりと服を脱ぐことができるというストーリーだ。

同キャンペーンは、イタリアのクリエイティブ・エージェンシー、パブリチス イタリア(Publicis Italia)との提携で、またキャンペーンイメージは「トイレットペーパー マガジン(TOILETPAPER magazine)」を手掛けるアーティストのマウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)と写真家のピエールパオロ・フェラーリ(Pierpaolo Ferrari)が担当した。

「ディーゼル」はユーモアや皮肉を交えたキャンペーンを得意としており、これまでもオートクチュールならぬ“Hate Couture(ヘイトクチュール)”キャンペーンや、コピー商品を皮肉って自ら「ディーゼル」のコピー商品を作るなどといったキャンペーンを行っている。

ウーバーで偶然乗り合わせたカップルが作る異色のストリートブランド「ABC.」

アップロードファイル 17-1.jpgアップロードファイル 17-2.jpg

混戦を極める昨今のストリートウエア市場で成功する法則は、大雑把に言って以下の4つに分かれる。第1に、「シュプリーム(SUPREME)」であること。第2に、「シュプリーム」で経験を積むこと。第3に、カニエ・ウェスト(Kanye West)の仲間になること。第4は、カニエとつながりがありそうなインフルエンサーに服を提供することだ。

しかし、今ストリートウエア市場で注目を集めている「アドバイザリー ボード クリスタルズ(ADVISORY BOARD CRYSTALS以下、ABC.)」を手掛けるカップル、ヘザー・ハーバー(Heather Haber)とレミントン・ゲスト(Remington Guest)は、これらどの法則にも当てはまらない異色の存在だ。2人は「シュプリーム」で働いたこともないし、カニエは尊敬しつつも知り合いではないという。さらに、9月に「ABC.」を着用していたところをパパラッチされたジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)も、本人がニューヨークのセレクトショップ、パトロン・オブ・ザ・ニュー(Patron of the New)で購入したもので、2人はインフルエンサーに服を提供したことが一切ない。さらに、近年ラグジュアリー業界とも関係を強めているストリートウエアブランドがひしめくロサンゼルスを拠点としながら、「ABC.」は独自のコミュニティーを築いている。「本当に誰も知らないんだ。『バンド オブ アウトサイダーズ(BAND OF OUTSIDERS)』のスコット・スタンバーグ(Scott Sternberg)なら知ってるけど、それはまた違う話だよね」とゲストは言う。

2016年に2人の自己資金でスタートした「ABC.」は設立から2年で、「グレイルド(Grailed)」やコレット(Colette)、バーグドルフ グッドマン(BERGDORF GOODMAN)、ユニオン(UNION)などのECサイトや百貨店、セレクトショップと限定コラボコレクションを発売し、いずれも即完売した。今のストリートウエアシーンとはまた違う世界で生きながらも、「ABC.」はそのキープレーヤーとなりつつある。

「ABC.」のクリエイションの特徴は、ブランド名にもあるクリスタルをインスピレーション源にした手染めの技術と、DIY的なディテールだ。“Eternal youth(永遠の若さ)”や“living forever(永遠に生きる)”をブランドのテーマにしており、例えば古代ギリシャ語で“fulfillment(達成感)”を意味する“Eudaimonia”という単語をフィーチャーしたTシャツや、携帯電話から放出される電磁波をカットする素材で作ったアイテムなど、ウェルネスや世界に役立つことを意識しながらも、着用者にもメリットがある服で偽善的に見えないのが特徴だ。2人は、こうしたアイテムにまつわる情報をインスタグラムで詳細に記述する他、時折アイテムと一緒に提供するZINEでも説明している。

「ABC.」のコラボ相手はファッション業界に限らず、薬用ハーブショップのファーニス クリーク ファームズ(Furnace Creek Farms)とは、“Youth Elixir(若返りの薬)”と名付けたドリンクを発売したり、最近ではフリーウェブ百科事典の「ウィキペディア(Wikipedia)」とコラボTシャツを発売した。「私たちはブランドのためにウェルネスについて調べるとき、いつも『ウィキペディア』を使っているから。より良い生活を送るための情報を提供したいけど、説教したり教えるような方法ではなく、ただ情報をシェアしたいの」とハーバーは語る。このTシャツから得た収益の100%がウィキメディア財団(Wikimedia Foundation)に贈られた。

ハーバーとゲストの出会いは、2015年にロサンゼルスでウーバープール(Uber Pool、ウーバーが提供する乗合サービス)で偶然同じ車に乗り合わせ、同じ日にエース ホテル(Ace Hotel)で再び出くわしたことがきっかけだった。マイアミで生まれ育ったハーバーは、ロサンゼルスのオーティス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン(Otis College of Art and Design)でファッションデザインを学び、「スリー アズ フォー(THREE AS FOUR)」や「バンド オブ アウトサイダーズ」でインターンをするかたわら、自身のブランド「ハーバー(HERBER)」を数シーズン手掛けていた。一方ニューヨーク出身のゲストは、「バンド オブ アウトサイダーズ」で働きながら、「The Cheap, The Best & The Hidden」というフードブログを書いていた。しかし2人が「バンド オブ アウトサイダーズ」で働いていた時期は重なっておらず、同じブランドで働きながらもこのとき2人が出会うことはなかった。

初めてのデートでクリスタルショップを訪れた2人は、お互いクリスタルが好きということを知り、ゲストはハーバーにストレスや不安を減らす効果があるというリチア雲母の結晶を買った。サンクスギビングの週末に2人は「ABC.」の構想を練ったが、このときはファッションブランドというよりもお守りやインテリア装飾も販売するクリスタルショップを想像していたという。

クリスタルはアメリカのミレニアルズを中心にブームになっているが、2人はブームが起きる前からクリスタルに注目していた。ハーバーは、「私はクリスタルが美しいから集めていたの。だから集めたクリスタルの名前も効果も全ては把握してない。クリスタルを選んだのは、スピリチュアルな観点よりももっと現実的な観点から。私たちは、もし何かを強く信じたら本当に効くという説を信じているの」と話す。

「ABC.」が特徴とする染めも、タイダイを中心に多くのストリートウエアブランドの間でデザインに使われる手法だ。最近ではスニーカーヘッズの間でもスニーカーを自分でさまざまな色に染めるのが流行っているが、自分仕様に染め上げたスニーカーをインスタグラムに投稿するときに「ABC.」がなぜかタグ付けられるという。「ABC.」もDIY的なデザインをシグネチャーとしているが、2人がブランドやリテーラーとコラボするときは必ず公式にコラボ相手の了承を得ている。「ナイキ(NIKE)」とのコラボによる、中敷にクリスタルが入ったパックを取り付けて、シューレース部分にストラップを取り付けた“エア フォース 1(Air Force 1)”は、イタリア発のセレクトショップ、スラムジャム ミラノ(SLAM JAM MILAN)限定で発売した。「ナイキ」好きのゲストは、「ナイキ」以外のスニーカーブランドとは協業しないと決めているという。

What Took You So Long?(何でそんなに時間かかったの?)”と名付けられた「ABC.」のファーストコレクションでは2人の出会いを表現し、ローズクオーツをイメージした手染めのTシャツを製作。クリスタルが入ったパックも一緒に提供した。パスワードがないと入れない「ABC.」の公式ECサイトとユニオンのロサンゼルス店のみで発売したが、すぐに売り切れた。

ゲストは、ユニオンのオーナー、クリス・ギブス(Chris Gibbs)とノア(Noah)のニューヨークでのポップアップで出会ったときに「ABC.」の構想を語り、その後改めて全ての構想をプレゼンした。ギブスは、「とても驚いたよ。2人は全てにおいて構想を練っていた。俺がやったこともないことについてもね。顧客をクリエイティブな形でつながる全ての方法を考えてた。ドープだと思ったよ。2人の間にいい化学反応が起こっていたことももちろんだけどね」と当時を振り返る。

「ABC.」の商品はあまりの人気ゆえにすぐに売り切れてしまうが、手に取りにくい価格帯ではない。「『バンド オブ アウトサイダーズ』では、浸染のTシャツを900ドル(約10万円)で販売していたが、『ABC.』では手染めのTシャツを100ドル(1万1000円)前後で販売している。自分たちで手作りしているから量産できないのも理由の1つだが、価格によるエクスクルーシブではなく、供給量によるエクスクルーシブを支持しているからだ」とゲスト。「今の女の子たちはワークアウト用の服やスキンケア、コスメ、サプリが最優先で、他のことは二の次になった。パラダイムがシフトしたの。私自身も『ABC.』の服かビンテージか、ずっと前から持っている古着のスカートしか着ない」とハーバーも付け加える。

アリーブランドや現代アーティストのアイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei)など10組のコラボプロジェクトを現在抱えている。また、ウィメンズラインも立ち上げる予定だ。こちらはストリートやアスレジャー的要素を入れないものになるようだ。さらに、シーズンに関係なく、限定コレクションを発売するスタイルを取りながら、「ABC.」の実店舗オープンも視野に入れているという。「今は僕ら2人しかいないからあまり多くは語れないけど、普通じゃない店になるだろうってことは確か」とゲストは語る。